
こんにちは、ライターのTAKAHIROです。
今回は僕の好きな映画『リトル・フォレスト 夏・秋』について、感じたことをつらつらと綴っていこうと思います。ゆったりとした時間の中で、人が少しずつ再生していく様子を描いた作品です。
一人暮らしのいち子に宿る“問い”から始まる物語
最初に観て思ったのは、「どうして、いち子はこんな山奥で一人暮らしをしているんだろう?」という疑問。劇中では明確に語られないまま、いち子は自分の手で食材を育て、採り、加工していきます。パン、ジャム、ウスターソースや米サワーまで。その手際は美しく、無駄がなく、でもどこか切なげでもあって。
そうやって料理を続ける中で、少しずつ彼女の過去が垣間見えてくる。
一度は街へ出て、男性と同棲し、都会の暮らしを味わったいち子。けれど何かがうまくいかず、生まれ育ったこの“小森”という地に戻ってきた——その経緯が、徐々に見えてきます。
主演・橋本愛さんの静かな存在感
橋本愛さんといえば、独特の存在感と内に秘めた強さを感じさせる演技で知られる女優さんです。1996年熊本県生まれ。2010年に映画『告白』で注目を集め、その後も『アバター』『管制塔』など話題作に出演。2013年にはNHK朝ドラ『あまちゃん』でのクールなアイドル役が大きな話題となりました。
この『リトル・フォレスト』では、セリフよりも仕草や視線で語る橋本愛さんの繊細な演技が際立っています。料理をする手元の丁寧さ、自然と向き合う凛とした表情、どれをとってもリアリティに満ちていて、「この人、本当にこんな暮らししてるのでは?」と思わせるほど。
もともと橋本さん自身も自然や丁寧な暮らしに関心がある方で、まさにこの作品との相性は抜群。役を“演じている”というより、“そこにただ暮らしている”という感覚。それがこの映画に深みを与えているように感じます。
「夏編」ではまだ揺れている、いち子の心
夏の小森は、緑がまぶしく、実りも多い。いち子もまた、丁寧に、淡々と暮らしているように見えます。ですが、そこにはどこか“仮住まい感”がある。それを感じたのは、三浦貴大さん演じるユウ太の存在がきっかけでした。
ユウ太もまた、都会を離れて小森に戻ってきた男。ただ彼は、「向き合うために戻ってきた」と言います。それに対して、いち子は「逃げてきた」と自ら語る。
この違いがとても印象的でした。
特にラストで、いち子がトマトの温室栽培をあえて選ばなかった理由。「温室を始めると、小森に居ついてしまう気がして…」と語る場面。どこかに、まだ“居場所を定めきれない”気持ちがあったのだと感じました。
「秋編」では、暮らしに根を張る力強さが
季節が進み、秋になると、いち子の中にも変化が訪れます。
自然の恵みと対峙する姿が、どこか頼もしい。合鴨農法に取り組み、最終的にはその合鴨をしめる。薪を確保するため、チェーンソーを扱い、その後の手入れまできちんとこなす。生活のすべてに“手間”があり、“責任”があり、そして“選択”がある。
いち子が作る料理は、どれも母・福子から教わったものでした。しかし当時の彼女は、母を「ずぼらだなぁ」と感じていた。けれど今、自分で同じものを作ってみると、母の料理の味にたどり着けない。その理由に気づいた時、いち子は「母が一手間加えていたこと」、そして「自分こそがずぼらだったこと」を認めます。
ここに、いち子の“自分との和解”が静かに描かれていたように思いました。
回想として浮かび上がる、母の存在
そして忘れてはいけないのが、母・福子(演:桐島かれん)の存在。
現在は一緒に暮らしておらず、その理由も最初は分かりません。やがて、いち子の元を福子が突然去ったという事実が明かされます。でも、その背景はまだ伏せられたまま。
秋編の終盤、福子からいち子宛てに一通の手紙が届きます。その封筒が、次回作『冬・春』への静かな伏線になっていることに気づくのです。
映画が教えてくれた“生きる”ということ
この『リトル・フォレスト 夏・秋』は、派手な展開があるわけではありません。
けれど、じわじわと心の深いところに沁みこんでくる映画です。
いち子は「生きるために食べる」。
そして「食べることで、生きている実感を得ている」。
それは都会では得られなかった感覚かもしれません。
手間をかけ、工夫をし、季節のサイクルと共に暮らす日々。
そのひとつひとつが、彼女の心と身体を少しずつ回復させていく様子に、
観ているこちらも自然と癒されていきました。
オマケの感想いくつか(TAKAHIROのつぶやき)
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ユウ太と米サワーを飲むシーン、「お、このふたり…?」と思ったのですが(笑)全然そんな展開にはならず。でも、そういう淡さがこの映画には合ってる気がします。
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合鴨をしめるシーン、正直ちょっと胸が詰まりました。でも、それが命をいただくということ。生きるということの重みを改めて感じさせてくれました。
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ちなみに細かい話ですが、電気代やガス代はどうしてるのかちょっと気になった僕。キャンプ場のイワナ養魚所で日雇いしてる描写もあるけど、それ以外の収入源は……貯金?(笑)
どんな時にこの映画を観るべきか
実は、僕がこの映画を観た日は、少し精神的に疲れていた日でした。免許センターで、些細なことで怒鳴りあっている年配の男女を目撃し、正直、「あと数分続いたら自分もキレてしまいそうだった」というくらい。
そんな夜に観た『リトル・フォレスト 夏・秋』。
いち子の静かな暮らし、季節の移ろい、美味しそうな手作りの料理たち……そのすべてが、僕の中にあったギスギスした感情を少しずつ溶かしてくれました。
忙しさやストレスで心がすり減っている時。
人との摩擦に疲れてしまった時。
そんな時こそ、この映画はおすすめです。